あの子との勝負

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「じゃあ負けた方は一気飲みだよ。」
ダーツの的に背を向けてあの子は大きな丸い目が細くなるほどの笑顔で言った。
テーブルには空のショットグラスがいくつも並んだ。
あの子の投げた矢はど真ん中を突き刺していた。

僕たちはたくさんの勝負をした。
煙草は絶対にやめられないと言うあの子に勝つために僕は煙草を吸わなくなった。
ホラー映画を怖がらない僕に負けないようにあの子は眠りながら映画の時間を過ごした。
あの子の得意なゲームで勝つために僕は毎晩1人で画面の中の戦場を走り回った。
嫌いな食べ物がない僕に負けないようにあの子は鼻を摘んでトマトを食べるようになった。

僕たちは互いに負けず嫌いだった。
だから一緒にいた。

「私から連絡することはもうないよ。」
最後の日にあの子は言った。
「僕から連絡することももうない。」
僕はそう言った。

この勝負に勝ち続けて1年3ヶ月が経つ。
その他
公開:21/04/09 12:19

ジャスミン茶

文章を書く練習を兼ねて作品を投稿していきます

読み手に何か感情を残せる文章を書きたいです

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