カマボコのサクラ

19
10

暖かくなってきた。
高架下で暮らす男にとってはありがたいことだ。

河川敷。すれ違うカップルが怪訝な目で男を見る。ゴミを見るような目だ。男は何とも思わない。

生暖かい風が吹く。川面は煌めき、高い太陽は分け隔てなく光を降り注ぐ。ふと見上げると桜の木があった。思わず後ずさる。

「私はカマボコの神」
脈絡がない。男は怪訝な目で枝の上に腰掛けた白衣の老人を睨んだ。
「カマボコ食うか?」
男は首を振った。
「嫌いなんだ」
神は嘆いた。
「どうしてだ」
「味は薄いし、食感は退屈だ。人工着色料の権化みたいな模様も気に食わん」
神は残念そうに頷いたあと、幹の影から白い徳利を取り出した。
「ま、一杯やろう」

草むらに二人で座り込んで川を眺める。酒を飲んでいると、口が寂しくなってきた。
ふと、横においてあるカマボコをつまんで口に放り込む。
「どう?」
「不味い」
言いながら、何度も食べる。

春の一日。
その他
公開:21/04/09 18:00
お祭り乱入 無理やり

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容