だから言ったのに

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「おかえり。今日の初仕事、どうだった?って聞くまでもないか…お父さんに泣かされたんだね?」
真っ赤な目で娘は頷いた。
「だから言ったのに…お父さん、凄く厳しかったでしょ?」
「うん。いつもの父さんと全然違ってた。何度も何度も怒鳴られた」
娘はこの春、父のケーキ工房に弟子入りした。
これまで手伝い程度の事は何でもこなせていたから自信があったのだろう。それが見事に折られてしまったようだ。
「ただいま」
夫が帰って来る。娘は肩をビクッと震わせた。
「お土産だ」
夫が娘の前にケーキを置く。
ルビーカカオのチョコレートケーキ。宝石苺の散りばめられた匠の品で私と娘の大好物。エメラルドメロンまで使った最高級品だ。
「ケーキは甘くとも、洋菓子宝石匠の道は甘くないぞ」
娘はケーキを一口食べて「絶対に追いついてやるんだから!」と赤い目で言った。
それを見て、密かに頬を緩める夫。
相変わらず娘には甘いんだから…
公開:21/04/08 19:21

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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