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「板についてきたじゃねぇか」
不愛想な父の呟きを背に、桜次は黙々とコテを振るう。同じ板付きでも、檜舞台と蒲鉾板では雲泥の差だ。
芝居を志して上京し、花実どころか芽さえ出ぬまま尻尾を巻いた。千両役者の夢破れ、実家の蒲鉾屋で細工師見習いをしている。
「塗りが甘ぇ!自慢の桜が死んじまわぁな」
要らぬ力の入る拳を堪え、すり身を掬ったコテ先を板に滑らせる。桜の古木を使った名物の燻製蒲鉾へ、満開の花を咲かせていく。ミリ単位の真剣勝負、客は背中の親父のみ。八畳間の作業場で、日々手探りにすり身を刻む。
「人生万事てめえが主役よ。役者だろうが蒲鉾屋だろうが、生きてる限り舞台の上。咲かすも殺すも、てめえの腕一つに懸かってんだぞ」
『さくらや』の印を板に焼きながら父が言う。反論も同調もせず、桜次は三寸五分の板に向かう。
研き続けた桜次の細工は、次第に口伝てで評判を呼び、数十年後、人間国宝と称される名人となった。
不愛想な父の呟きを背に、桜次は黙々とコテを振るう。同じ板付きでも、檜舞台と蒲鉾板では雲泥の差だ。
芝居を志して上京し、花実どころか芽さえ出ぬまま尻尾を巻いた。千両役者の夢破れ、実家の蒲鉾屋で細工師見習いをしている。
「塗りが甘ぇ!自慢の桜が死んじまわぁな」
要らぬ力の入る拳を堪え、すり身を掬ったコテ先を板に滑らせる。桜の古木を使った名物の燻製蒲鉾へ、満開の花を咲かせていく。ミリ単位の真剣勝負、客は背中の親父のみ。八畳間の作業場で、日々手探りにすり身を刻む。
「人生万事てめえが主役よ。役者だろうが蒲鉾屋だろうが、生きてる限り舞台の上。咲かすも殺すも、てめえの腕一つに懸かってんだぞ」
『さくらや』の印を板に焼きながら父が言う。反論も同調もせず、桜次は三寸五分の板に向かう。
研き続けた桜次の細工は、次第に口伝てで評判を呼び、数十年後、人間国宝と称される名人となった。
青春
公開:21/04/10 01:00
蒲鉾の桜祭り
蒲鉾板の主な材料はモミです。
板には蒲鉾の安定の他、
調湿による品質保持や
消臭などの効果があるそうです。
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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