蒲鉾の錯乱

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「蒲鉾のピンクの秘密、わかっちやった!」

彼女が笑いながらとんでもない事を言うので、僕は包丁で彼女の左手首をストンと落とした。輪切りになった彼女の手首のピンクと白の輪が露わになった。

彼女は手首の切断面を僕に見せつける。一番外側は皮膚。その内側に鮮明なピンク色の層、そして中央の芯に子供の顔。

「金太郎?」

彼女はフフッと笑った。僕は更に左手を輪切りにしていく。金太郎の輪切り手がトントントンと軽やかな音と共に飛び跳ねていく。

知らなかった。まさか僕の彼女の左手が金太郎飴だなんて。まあ、すり身にしたら一緒だ。

僕ら蒲鉾は正月の時期以外は様々な擬態をして暮らしている。夏は浮き輪、秋は団子、そして春は桜だ。

「ママ、この桜の花、金太郎さんみたい」

飴はすり身にできなかったみたいだ。失敗だ。まあ、バレたら、すればいい。

花見を楽しむ親子の背後に桜の木がにじり寄ってきた。
ホラー
公開:21/04/09 22:28
更新:21/04/09 22:32
蒲鉾の桜

たらはかに( 日本 )

たらはかに

https://twitter.com/tarahakani
猫ショートショート入選 「猫いちご ・練乳味」
渋谷ショートショート入選 「スク・ラブラブ・ランブル交差点(哀)」とか。

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