樹えき

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桜の樹の色が、ピンクからグリーンに変わった途端、夏がやってきた。
暑くなるのはあっという間で、小学生の息子は一人で山に遊びに行っていた。
ただいまー、という無邪気な声に、おかえりー、と返事をした途端、ふわっと甘い香りがした。
はっとした私は慌てて、汚れた服のままソファーにダイブしようとしていた息子を捕まえた。
やはり。
ほっぺたにテカっているのは、山のクヌギの樹液に違いない。
お風呂に入れて、ご飯を食べさせて…
遊び疲れたのか、息子はころんと眠ってしまった。
私もそろそろ寝ちゃおうかな。

その夜、私は心地いい葉ずれの音を聞いた。
うつらうつらとしたまま、何気なく息子の顔を見ると驚いた。
頬が、ぼんやりとした緑色に輝いていたのだ。
それはまるで、葉陰の光陰のきらめきのようだった。
私は悟った。
息子がつけてきたのは、樹液ではなく樹駅。
月夜の下で、息子の頬に、木々が集っていたのだ。
ファンタジー
公開:21/04/09 20:36

かさ( 愛媛 )

来年以降のいきかたが決まりましたヽ(=´▽`=)ノ

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