クレーマー・クレーマー

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「やーだぁ」
また始まった……。フォークが引きずった焼きうどんを片付ける。テーブルの上でのたくった麺。拾って温め直して、俺が食うしかないな。こぼした牛乳の臭いに胃がもたれてくる。
イヤイヤ期真っ最中の娘は、何かにつけて『やーだ』の連呼。もちろん食い物に当たるのは厳禁だって分かってるし、普段は文句を垂れてもちゃんと食う。
「きえーにして」
綺麗にして、かな。保育園で友達の弁当に衝撃を受けたらしく、直前まで語り通しだったから。
赤貧の父子家庭に、キャラ弁なんて作るスキルも時間も、当然ながら金もない。ぺらぺらのカマボコの切れ端を無言で拾いながら、泣き始めた娘の声を聞いていると、こっちまで泣きたくなってくる。
「ほら。きえーにしたぞ」
俺の皿から盛り直した焼きうどんに、フォークで切り目を入れたカマボコの桜。
「きえー!ぱーぱ、きえー!」
泣き止んだそばから笑う顔に、色々こみ上げて止まらなくなった。
その他
公開:21/04/09 18:42
蒲鉾の桜祭り

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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