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当人の立場にならなければ、見えない景色がある。

しかし誰も、他者になることはできない。いくらかは不本意でも、生まれてから死ぬまで、自分を生き続けるしか無い。

そんな我々に唯一訪れるチャンスは、老い、である。



娘がじい、と私を見ている。美しい湖より、くず鉄の山を見ている時の目に近い。

「どうしたんだい? 何度も言うようだけど、私はお前のボーイ・フレンドにはなれないよ」
「」
視線が会わない。娘は何か言おうとしたが思い直したらしく、そのまま口をつぐんで向こうへ行ってしまった。



妻がじい、と私を見ている。

「なに、なんかついてる?」
「デブ」
もうちょっといい方があるだろう?
「あなた、馬鹿にしていたお義父さんの写真そっくりよ、いま」



息子がじい、と私を見ている。

「お前もいつかわかる時が来るさ」
「絶対ないし、マジだせえから」


私はじい、と過去を見ている。
その他
公開:21/04/07 01:00
更新:21/04/06 23:33

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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