きりとり、す。

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終着駅についた。向かい合うベンチシートに座っていた真新しい制服の学生たちは弾むような喜びと不安を柑橘みたいに香らせて魚群のように降りていった。
線路と車輪がこすれて焦げたようなにおいの中に焼き場で見上げた父のけむりとあの日の青空を思い出す。私はこの列車で父を追いかけているのだろうか。
列車が折り返し発車するまで、私は車両の最後尾でひとり、この穏やかな時間を愉しむ。
沿線の八重桜は満開をすぎて、散る花が視界を濃い春色に染めている。その春色は開放されたドアや窓から横殴りの雨のように入りこみ、車両の床を端から端まで桜色に変えた。
私がその美しい一本道に見惚れていると、父によく似た笑顔の運転士が全ての車両と座席を点検しながらこちらにやってくるのが見える。
どうしてなの。父の目に滲むさよなら。そして私は視界を失う。容赦のない切除。やがて列車は、思い出みたいなポリープの私を残して私から離れていった。
公開:21/04/07 11:03

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