芸術コーナー

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6階建ての書店。今日も上へ下へと渡りながら、本棚の間で旅をする。
気の向くまま歩いていて、立ち止まる。芸術コーナーがない。間取りが変わったのかと、フロアガイドを見た。記載がない。店員に声をかけると、芸術コーナーはそもそも置いていないという。
釈然とせず、建築コーナーの近くにないかと5階へ上がる。階段を出ると、何か違和感があった。すぐ右手の建築コーナーだった棚に並ぶ、医術書。その棚を曲がり、心理学書をまたいだ先の建築書の列。先ほど見た棚の配置と、まるで違う。
足早に、渡り歩いてきた本棚を探す。1階中央の旅行コーナーが3階に。6階奥の法律コーナーは2階に。歩くたびに変わる間取り。今の場所がさっきも来たのか、そうでないかも分からない。
息をつきたい。人の通らない方へと、隅の一角に踏み入れた途端、時間の流れがゆるやかになった。ざわめきが途切れる。馴染みある感覚を覚え棚を見ると、画集が収まっていた。
ファンタジー
公開:21/04/04 12:34
間取り

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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