イクラ並木

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ずいぶん上流まできたが見当たらない。やはり噂にすぎなかったかと思いつつ、もう少しだけと登った先に、それはあった。
細い銀色の木に一斉に咲き誇るオレンジ色のつぶつぶが、午後の陽を浴びてキラキラと輝く。
狭い川を覆うように両岸から枝が伸び、岩にぶつかって跳ねた水が艶やかな粒を洗う。重なり合う枝がずっと遠くまで続きオレンジにけぶる。見事なイクラ並木だ。
よく見ると粒の中の黒い目玉が盛んに動く。これは。もう満開なのか。
もしかしたら散る瞬間が見られるかも。私は野営の準備をし、腰を据えて待った。

靄の立つ朝、期待に胸を震わせて川岸に立つ。
風だ。
帽子を押さえて見上げる。
濃くなったオレンジの粒がふるふると震えて、仔魚が身をよじると、ふるんっと殻を脱ぎ捨て宙を舞う。次々と脱ぎ捨てられた透明な殻は風に舞い、降り注ぐ。
仔魚たちは風に乗って川に飛び込む。飛沫に混ざる微かな水音。連なり流れる綾錦。
ファンタジー
公開:21/04/03 23:49
桜を考えすぎてなぜかイクラに ガーデン直った?

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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