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 刑務所の面会の帰り道、私は家の近所の土手の桜沿いの道を歩いていた。この道は鬼が出ることで有名で、付近の人たちはほとんど通らない。桜はもう散り始めていて、白い花びらが舞い踊るさまは息を飲むほどに美しかった。誰かが服の裾を引っ張る気配がして振り返る。
 
 ーー死んじゃえ
 額に小さな角がついた小鬼だ。
「そんなこと言っちゃダメ」
 
 ーーさみしいよ
「さみしいね」
 私はしゃがんで小鬼の頭をそっと撫でた。
 
 ーーおかあさん
 「ごめんね、何もしてあげられない」
 私は小鬼の痩せた小さな体を抱きしめた。
 泣き出した小鬼の背中をさすった。

 いつの間にか小鬼の姿は消えていた。ただ、静かに桜が舞っている。
 小鬼は実の母親にここで殺された。魂が死に切れず、彷徨っている間に鬼になってしまった人間の子供だ。
 私は毎年ここへ来る。4歳で死んだ弟に、大好きだったチョコレートを供えるために。
その他
公開:21/03/30 14:03

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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