佐保姫の歩幅

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佐保姫の
糸そめかくる青柳を
吹きな乱りそ春の山風

平兼盛

春の女神、佐保姫は
春霞の衣を纏い、柳を青く染め
天地の色を織りなすという。

そして佐保姫が歩むごとに
春が深まっていく。

あるとき、姫の歩幅が
いつもの倍の長さになった。
世間の桜が一気に五分咲きになる。

姫は、あら~わたくしと
したことが・・・と恥じらい
そっと歩みを止める。

そして控えめな一歩を
踏み出した途端。

ドタン!!

哀れ、何かに躓いて
しまった。

「やれやれ、人間の
小道具がわたくしの足に・・・」

それは山中の不法投棄物。
冷蔵庫や、車のバッテリー
空き缶、家庭ゴミだった。

佐保姫は足首を捻挫して
立てなくなり歩みを止めた。

その日の気象ニュースで
「4月上旬、夏日到来
気温は30.7度を記録」と
世間を賑わせた。
ファンタジー
公開:21/03/29 09:55
更新:21/03/29 18:44

翡翠工房( 石川県 )

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