レイキャビクの雲行き

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彼の部屋に忍びこんで一番驚いたのは、押入れに今川焼が備蓄されていたことだった。
天井に墨書きされたレイキャビクという文字も衝撃だったけれど、下足箱にまで山と積まれた今川焼に驚かぬ人はいないだろう。
彼の心のリビングを土足で歩くようなこのドキドキが恋でなければいったいなんなのですかと私は捜査官の横浜さんに詰め寄ったけれど、不法侵入は認めるしかないものだから、私は彼に近づけなくなって、だからどうして今川焼を備蓄しているのかその謎に迫ることはもうできない。
そのことを取調室で私が嘆くと横浜さんは「自業自得。身から出たサバでしょ」と、えくぼがとっても素敵な笑顔で言うから、私は次の恋をみつけた気がした。
その日のうちに忍びこんだ横浜さんの家には下足箱いっぱいに真サバが備蓄されていて、トイレの壁にはレイキャビクの墨書き。
こうしていつも父親に似た人を好きになるのは何故だろう。この恋も雲行きは怪しい。
公開:21/03/31 06:55
更新:21/04/05 09:24

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