目覚めの音

トン、トン、ストン。
ボンヤリとした頭の中に、いつもの音がしていた。僕は目を瞑ったまま、その音に聞き入る。 世の中でいちばん幸せの音だと言っても過言ではない。だけどまだ眠い。 時間が来たら、彼女が起こしにきてくれる。 この幸せな時間が永遠に続けばいいのに…。 まだ起きたくないなぁ。


私は今日も、彼が好きな少し固めのリンゴを切る。朝食後のデザートは毎日これ。
先に大まかに割って、うさぎの形に皮を残す。
一度彼が風邪を引いたとき、食べやすいように『すりリンゴ』にしてあげたことがあったが、
「まるで生命力が感じられない」そう言われた。 以来、私は、彼がどんなに体調の悪い時でも、固めのリンゴを出すことにしている。

そして今日も、すりリンゴの様にどろりと眠る彼のベッドの傍らで少し固めのリンゴを切る。

この音が彼に届くように…。

意識不明になって2ヶ月…私は毎日リンゴを切る。