無意味なセッシュ

　あるところに一人の反知性主義者がいた。
　インテリや科学を憎み疑い、清貧で純粋無垢な民衆こそが絶対正義と信じて疑わぬ此奴も、やはり近頃陰謀論者の界隈で大流行している反ワクチン運動に飛びついた。
　連中が言うには、ウイルスはいくらでも変異し、ワクチンに対する抗体を持つから無駄である。製薬会社に搾取され続けるだけだ。そもそも奴らは政府と手を組み、ワクチンとともにマイクロチップを接種させ、国民の脳をハッキングし情報を読み取ることで…とのことであった。
　そこで此奴はある一つの真理にたどり着いた。「本当は食事などする必要はないのではないか？ きっと食品産業は政府と手を組み、体が食い物を欲しがる物質かなんかを混ぜて国民を欺き、豚として飼育して悪魔教団に…」と。
　その日から此奴は一切の食事を断ち、何もない部屋に閉じこもることで静かなる抵抗を始めた。案の定飢え死んだ。