とめどなく出るよ

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「まもなくでしょう」
隣家をピッキング中にかかってきた電話は主治医からのもので、背後からは激しい電子音が聞こえて、父親との別れが近いことを報された。
「先生今どこに」
「ちょっとパチンコに」
「父は大丈夫でしょうか」
「急いでください」
「先生も」
「一旦戻ります」
病室に着いたのは私が先で、30分ほどしてから原色のカピバラがプリントされたスウェット姿の先生がやってきた。
先生のサンダルは踏めばヒヨコ気分になれるもので、なんだかかわいい雰囲気の中で死亡確認を済ませると私に死因を告げた。
「田沢湖付近だね」
私はまだ父の死が理解できなくて、混乱の中でその言葉を繰り返した。田沢湖付近。変わった死因だ。
ぴよぴよと病室を出ていく先生を見送り、次々に現れる父の愛人たちをおいて私は病院を出た。
先生の隣の台で遊びながら、私は不意に死因が多臓器不全だと悟り、笑いがこみ上げて、それはやがて涙に変わった。
公開:21/03/28 11:23

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