Ⅰ．040 ペルビエの攻防～御宝～

　ペルビエの攻防。
　それが主人とわたしにとって、初の盗縛劇につけられた呼び名だ。
　ペルビエとは、キュフェナ区にある旧市街地のことであり、ジュエルラッシュで集まった労働者の、一時の住居として建てられたアパートメントの密集地帯である。
　碌に地均しもされていない、隆起の激しい土地に無計画に同様式の住居が乱立した結果、年に何人もの遭難者を出す迷宮と化し、ずさんな管理から、不法入居者の問題にも悩まされる、ジュエルラッシュによる負の遺産となっている。
　標的となる御宝があるのは、そこから目と鼻の先にある王立リナーラ美術館である。
　盗縛劇においては、舞台となるは王立関連の施設が主であり、我々のデビュー戦もその例に漏れずであった。
　標的となる御宝は、黄石の蜂。
　素材はトパーズ。蜂を象った手の平サイズの工芸品である。
　元はある貴族の所有物だったらしいが、それ以上の事を当時の我々は知らなかった。