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散歩中、足元の桜並木に膨らむ蕾を見て、久しぶりに寄ってみようと思った。
ほんの二、三十年の間に、かつての古巣はすっかり寂れ、歯が抜けた様にぽろぽろ欠けて、目に留める人間も減った様だ。
翼を収め、太った枝に腰掛ける。子天狗の頃には若かった樹も、老いて大樹の貫禄だ。
春には樹冠を覆うばかりだった花は、数えるほどしか付いていない。枝先は痩せ、わやわやと分岐し、ろくに手入れもされないまま、もう永くないのだと判る。
この病を『天狗の巣』と名付けた人間を責めようとは思わない。
目先の事に忙しい彼らは、花さえ楽しめば、次の春まで忘れ去ってしまう。知らず知らず衰え、冬を越して裸のままの並木を見て、ようやく自分達が失ったものに気付くのだろう。
荒療治になるが、やむを得ない。一番酷い病巣を風で払い、傷口に霊薬を塗る。
突然落ちた塊に人間達は驚き、転がった枝を気味悪そうに片付けると、幹を見ずに掃除を終えた。
ほんの二、三十年の間に、かつての古巣はすっかり寂れ、歯が抜けた様にぽろぽろ欠けて、目に留める人間も減った様だ。
翼を収め、太った枝に腰掛ける。子天狗の頃には若かった樹も、老いて大樹の貫禄だ。
春には樹冠を覆うばかりだった花は、数えるほどしか付いていない。枝先は痩せ、わやわやと分岐し、ろくに手入れもされないまま、もう永くないのだと判る。
この病を『天狗の巣』と名付けた人間を責めようとは思わない。
目先の事に忙しい彼らは、花さえ楽しめば、次の春まで忘れ去ってしまう。知らず知らず衰え、冬を越して裸のままの並木を見て、ようやく自分達が失ったものに気付くのだろう。
荒療治になるが、やむを得ない。一番酷い病巣を風で払い、傷口に霊薬を塗る。
突然落ちた塊に人間達は驚き、転がった枝を気味悪そうに片付けると、幹を見ずに掃除を終えた。
ファンタジー
公開:21/03/25 20:17
散歩道で見た
シーズン4-②
天狗のなげき
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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