よっつ

4
2

戦国時代には砦があったという小さな山の頂のキャンプ場でひとりテントを設営している私の眼前をミルクティみたいな毛色の猫が横ぎったものだから私は手をとめて猫の行方を目で追っているとあろうことかその猫は焚き火の中へと突き進んで甘い香りを残してジュッと消えたものだから驚いて声をあげたけれど今は氷河の北半球にこの衝撃を伝える相手などいない。ともにこの地にやってきた犬の煤太郎は降りしきる雪の中にやはり魂の焼ける甘い香りを残して消えた。やがて雪はやんで見渡すかぎりの氷の世界に昨日までは7つあった星が今夜は5つしかない。ひどく寒いけれど火を起こせば魂がまたひとつ消えてしまうだろうと暖を求めて南下した私が辿り着いた赤道はその先が切り取り線でちぎれており海水はこぼれむきだしの地底に遺された沈没船の街角には消えゆく地球の体験談募集という紙が貼られていて電話をかけた私に担当者は言った。
「句読点は有料ですからね」
公開:21/03/24 11:48

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容