中華飯店桜宝軒 時給850円

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中華飯店桜宝軒の朝は早い。
仕込みは日が登る前から、清掃にも余念がない。
俺がバイトを初めて1年、雑用が多かったが、初めて中華鍋を振らせてもらった時は手が震えた。

ろくでなしの俺を雇ってくれた大将には恩義しかなかった。

「…火入りがまだすこし甘い。」
俺が作る炒飯を食べた大将は言うと自ら中華鍋を振った。パラパラで具材と米の調和が取れた炒飯は自分が作ったものとは天と地ほどの差があった。大将はすげえ、大将の中華はやっぱすげえ。来る日も来る日も店終わりに鍋を振った。

「明日から炒飯はお前が作れ」
大将に言われたあの日、誰かに認められることがこれほど嬉しいことなんて。

その日俺の時給が10円上がった。

小さいがその進歩がなによりも嬉しかった。

数年後、メニューもほとんど作れる様になったころ、

「話がある」
大将がそう言った次の日、
自宅の寝床でぐったりしている大将を俺は見つけた。
青春
公開:21/03/24 15:09
更新:21/03/24 17:10

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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