カレー地獄

　彼はカレーライスが好きすぎてたまらなかった。週三日はカレーライスを食べ、最長では二か月間夕食がカレー続きだったこともある。自他共に認めるカレー好きの噂は世界を飛び回り、その舌も確かなものだったので、ありとあらゆるカレー職人たちが彼に自らのカレーを食べてもらうことを生涯の目標としたほどだ。
　しかし、そんな彼がカレーを嫌いになった。
　その衝撃のニュースは世界中を震撼させ、人々は嘆いた。
　一体どうして。
　彼は病にかかっていた。
　それは、口に入れたもの全てがカレーの味に感じてしまうというものだった。
　リンゴを食べても、ラーメンを食べても、チョコを食べても、全部全部カレー。水を飲んでもカレーらしい、錠剤を呑んでもカレーだそうだ。
　やはり人は料理に違う味を求める。いくら好きだからといっても、それだけしかない世界ほどつまらないものはないのだろう。