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風が吹いている。
地平線の上には、あまたの宗教に神の座を得た至上の恒星が輝いている。

太平洋に建設された総合発電施設マグナ・テクノに派遣されて一ヶ月。ここでは世界は海と空と風で出来ている。
始めは施設の規模に驚きの連続で、飛び出した目玉と外れた顎を探し回る日々だったが、慣れというのは存外すぐにやってくるものだ。

ここで生み出された電力は海底ケーブルを通じて各国へと供給される。このだだっぴろい海の向こうで俗世と繋がっているのだ。どうにも不思議な気持ちになる。

朝から強い風が吹いていたが、いまはいくらかおとなしく、海面も穏やかになっていた。毎日拝んでいるが、一日として同じ空はない。一つとして同じ波はなく、風はいつも新しいメッセージを運んでくる。

海鳥が鳴いている。
白い泡を立てて鯨が鼻を見せる。
ここには退屈という概念が存在しない。

星空の下、目を閉じると感じる。
世界は生きている。
その他
公開:21/03/22 22:00
更新:21/03/22 16:10

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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