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そのベーカリー・オーブンみたいな容れ物から出てきたのは、なんだか重たそうな石だった。小型の炊飯器くらいのサイズで大きくひび割れている。

「触ってみてください」
僕はびくびくしながら指を触れた。何事もない。少し暖かいくらいだ。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。これはもともとあなたの中にあったものなのだから」
彼はそれから金槌をよこした。ずっしりと重たい。

「どうぞ」
僕はしばらくためらった後、えいやと槌を振り下ろした。石は思ったより丈夫で、簡単には割れないようだった。

がんがんがん、と何度も叩く。ようやく石が砕けたころには、僕はもう汗だくになっていた。

「気分はどうです?」
「すっきり……したかな」

曰く、それは心の重し。砕けば気分が軽くなるのだとか。

「どうやって取り出したんです?」
「企業秘密です」

なんだか騙されているようにも思えたが、気分は幾らか軽くなっていた。
その他
公開:21/03/21 17:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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