松の木の下で…

お父さん、もう十年が経ちました。 そちらの暮らしはいかがですか？ 好きなお酒、飲み過ぎてませんか？ お昼寝する時は、ちゃんと一枚なにか掛けてからにして下さいね。でないと、風邪を引いてしまいます。 まぁ、どうせあなたは咳をしながら
「ワシは風邪など引かん」
と言い張るのでしょうけど。

覚えてますか？ 近所にあった松の木。あれはまだちゃんとありますよ。あんなに細いのに、しっかりと根を張って私たちを見守ってます。大丈夫、ちゃんと生きてます。

私もね、体はあちこちガタがきてますけど、まだまだ元気に生きそうです。 もう少し待ってて下さい。 短気なあなたの事だから「遅い！何してたんだ」なんて叱られそうですけど、私にだってやる事はあるんですからね。

だから私にその時がきたら、怒らずにちゃんと迎えに来てくださいな。初めてあなたに買ってもらった紬を着て、約束通り、あの松の木の下で待っていますから。