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手渡された「設定」に従って、適当に応対する。どうにも演技というのが苦手で、しばしばリテイクが行われる。その度、メンバーの誰かが舌打ちをする音が聴こえる。

「この部屋は危険です……血の匂いがする。なにか呪わしい出来事のあった場所です」
「そ、そうなんですか。毎日ここでエアロビクスしてるんですが」
カット。
「瞑想とかにしてもらっていいです?」
僕は感心して頷く。確かに横文字はアンマッチかもしれない。ここは限界集落の古民家で、TVクルーは自称霊能者と連れ立って村へとやってきているのだ。

取材が終わると、初老の霊能者は恥ずかしげに頭を下げた。彼を除くスタッフ達はろくに挨拶もせず、さっさと玄関を出ていった。
薄ぼんやりした猿のような霊体が、彼らの背中に取り憑いている。

ディレクターの肩から、邪霊の一柱がこちらを振り向いた。僕は手をふる。

あと数年もすれば、すっかり食べ尽くしてしまうだろう。
ミステリー・推理
公開:21/03/20 22:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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