35年寝かせた秘伝のタレ

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ウチの近所に新しいラーメン屋ができた。
暖簾をくぐると、店主は初老の男だった。
脱サラした口だろうか。
軽く会釈をして席に着く。
メニュー表に書かれた文句に目が留まる。
<35年寝かせた秘伝のタレ>
おそらく店主が若い頃に撮ったと思われる、蔵に陳列されたタレ壷と彼自身の自慢げに腕組みをする姿を捉えた1枚の写真も載せられている。
おそらく二十代の頃から、いつかこの店を開業することを夢見て入念に準備してきたのだろう。
なるほど、ではその秘伝のタレとやらを早速味わってみようではないか。
注文したラーメンのスープを一口すする。
これは……
マズい!!
わなわなと手が震えた。
店主は感情の欠落したプラスチックのような笑みを浮かべている。
このラーメンを、私は完食できなかった。
そして単純な事実を学んだ。
人は長い年月の果てに、ついに失敗することがあるのだ。
私の平凡な日常は強烈な一撃を食らった。
その他
公開:21/03/19 08:50
更新:21/03/19 08:58

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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