それはかつて、確かにあったもの

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幼い頃、偶然にも見つけたそれを、僕はこっそり家へと持ち帰った。小さいけれど、どこか力強さを感じるそれは、僕の宝物。
「お前、名前は何て言うんだい」
返事は無い。
見たことも無い。
そんなものをこっそり育てるのはとても難しいことだ。でも、僕はそれを育て始めた。

生き物だとは思った。だって、この力強さは生き物が持つものだ。なら、餌を与えなきゃ。でも、僕の食事もお菓子も、こいつは食べてくれない。そうこうしているうちに、段々弱ってきてしまった。せっかく見つけたのに。
「どうすればいいんだよ」
そうぼやくと同時に、涙が零れた。すると、涙がそれにポタリと落ちて、少しだけ、元気になったように見えた。
「そうか、お前、水が良いのか」

それの正体を知っている人は、もう殆ど残っていない。荒廃した世界で生きているのは、ほんの一握りの人間だけ。

けれど、その花は。

いつか昇る太陽のように大きく見えたのだ。
SF
公開:21/03/15 11:57

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