虹を食べた男

虹を食べた、と言って自首してきた男がいた。彼は泣きながら、つい出来心だったと俯いて話した。警官は驚いた。平和すぎる昼下がりの出来事だった。

男は、それぞれの色に味があった、意外と硬かったが綿菓子のような食感もあったなど、食べた際の感想を詳細に語った。話を聞けば聞く程、本当に食べてしまったように思えてくる。
とはいえ、とても逮捕するような内容ではない。警官は男に、夢でも見たんだろう、帰ってゆっくり休むと良い、と話し、家に帰した。男は食べてしまった、食べてしまったと繰り返していたが、やがてとぼとぼと歩き始めた。

警官は彼を見送りながら、そうか、虹も食べることができるのか、と思った。なら次は、私も虹を食べてみようかな。先日こっそり食べた小さな星は、煎餅よりも硬く、鉄のような味がして、食べられたものじゃなかった。あれよりは美味しいんだろうな。

平和すぎる昼下がりの出来事だった。