思い出売りマス

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「難儀ですねぇ」
袴を履いて帽子を被った、20代ぐらいの若者はそう言った。
「それなら、これならどうです?」
彼が棚を漁って取り出したのは、小さなアルバム。数ページしか無さそうなそれは、何故か、ひどく僕の興味をそそった。
僕は鞄から財布を取り出す。
「幾ら?」
「お金はいただきません。うちは、等価交換なんで」
「等価交換?」
「ええ。代わりに、貴方の思い出をいただきまひょか」

気が付けば僕は、あの本を手に自分の家にいた。僕は、ゆっくりとアルバムを捲る。アルバムの中にあったのは、風景の写真。公園、海、遊園地…
「…あ!?」
しばらく写真を見つめていると、写真の中に人が浮かび上がる。それは、幼い僕と両親。楽しそうな景色に、大粒の涙が零れた。




「虐待を受けて、決して手に入らなかった思い出。けど、親に愛されなかった思い出も需要があるんや」

「さぁ、次はどんなお客はんにお売りしまひょか」
ファンタジー
公開:21/03/14 10:50

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