庭師

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今日は曇りだった。真珠色の雲は、内側に光を隠していても眩しい。雲にろ過された純度の高い日光が、町を洗う。
繊維状の日光を指に取り、瓶に入れた。庭師としての素材集めだ。

庭は、自然そのものではない。いかにも自然に見えるように草木を置き、人が望む風景を限られた空間に生みだす。
庭づくりの際、風景の像は人の心の中から取りだす。光や色は外の世界から。心の中の風景は、概しておぼろげだ。だから現実で集めた明暗を、色を使う。そして奥行きのある、鮮明な風景に仕上げる。

家に着き、瓶をうつしかえる。
夕陽の橙を取りだす。霧の色で包んで柔らかくし、瓶に入れた。鈍く光る星の銀には、ラムネの透明を。
色を調合しながら、竜宮城で四季の庭を作った時のことを思い出す。あれから、作った庭の草木が枯れない。自分と自分の作ったものは、時間の流れから外れているらしい。
あの時亀に乗ってきた客人は、どうしているだろうか。
ファンタジー
公開:21/03/14 06:40
曇り空 庭師

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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