伝書蝸牛

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北国に単身赴任中の夫が伝書蝸牛を送ったと電話をくれた。
「FAX送ったって電話する人みたい。今言えばいいのに」
「一か月後のお楽しみ」
そう言って、飴色の殻を背負った伝書蝸牛が、一生懸命進む動画を送ってきた。殻の中で光る粒がゆらゆらと踊る。そこにメッセージが入っているのだ。

なにもかもが終わって、蝸牛が来てないことに気がついた。問い合わせると、蝸牛もあの厄災に巻き込まれたのだろうとそっけなく言われた。
写真の横に一輪挿しを置きながら、「ねぇ、なんて言ったのよ」と聞いたけど、返事はなかった。

数年が過ぎた。
ある日玄関のドアを開けると、あの伝書蝸牛がいた。
飴色の殻は所々ひび割れて、藻が付いていた。持ち上げると目玉をぐいと伸ばして私を見た。目が合った。虹彩に反応したのだろう、小さな金属音がして殻が外れた。
殻をどうするんだっけ。遠い記憶を手繰り寄せる。そうだ。
私はそっと殻に耳を当てた。
その他
公開:21/03/13 23:43

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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