私が愛した男－５－

フルのチョイスに間違いはない。にしても、今夜のワインはかくも芳醇。
一日の作業から解放された意識が浮かんで宙を漂い始める。レタスとビーツが鮮やかなサラダ、チーズフォンデュ鍋、スキレット。どれもフルが食卓から片付けたのに、残像を俯瞰できるよう。
―そろそろ一段落するよね、仕事の方。来週末あたり、空きそう？
―そだね。
やっとフルとのんびりできるなあ。
―実はね、会ってほしい人がいるんだ。
会ってほしい人？なんかよく聞く台詞だな。頭の中で意味を結ばない言葉がはらりはらり浮遊する。
―出会ったんだ、運命の人に。ヒュマノコミュニティのダンスユニットで意気投合したんだけど、最初はちょっと軽薄な奴って思ってね、でも…
自分のことそんなに話すなんて、フルらしくないよ？
―で、家に呼んでいい？あかりに認めてもらわないと。
ランチョンマットが湿っている。ワインか。白なら落ちやすい、よかった。