心のベクトル

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初めてのデート。気が進まなかった。
あまりしつこいので、お試しで一度だけ、という約束で承諾してしまったのだ。その場しのぎの言い逃れは、あとで必ず後悔する。

待ち合わせ場所が東京駅のロータリーだったので、とんでもない車に乗って現れるのじゃないかと不安と期待半々で待っていたのだが、やって来たのは青のカローラだった。
中堅企業の若手経営者ということだから、それなりに気を使った格好をしてきたのだが、彼は思いの外ラフな出で立ちで助手席のドアから笑顔を向けてきた。

なんだか恥ずかしかった。

美術館やら、某少年漫画の特別展示などを巡り、昼下がりの公園を散歩しているときだった。
「お茶でもしようか」
「あ、はい」
すごいお店に連れて行くのかな、と思ったが、彼は近くの自動販売機からコーヒーを二つ買って戻ってきた。

ベンチに座ってとりとめない話をしながら私は、心のベクトルが反転していることに気がつく。
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公開:21/01/06 08:00
更新:21/01/05 13:20

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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