墓石の男

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 私は角が好きだが、角は際立って硬く鋭い。まず落ち着くことだ、と自分を律する。
 そして墓の長辺と上下の唇が水平になるように首を捻じ曲げる。わたしは左を天に向けるが、それは好みでよい。ただし、その際に目が墓地の入り口を向くように立つべきだ。
 墓石を舐める際には、他人に見咎められないよう、細心の注意を払わなければならない。この行為は、この行為がもたらす満足を共有できぬ者にとっては、さまざまなレベルで「嫌悪」を起こさせるだろうし、私はこの行為を、そういう者に説明しうる言葉を持っていないのだから。
『世の中には二種類の人間しかない。墓石を舐める者と、舐めない者だ』
 これは会長の墓碑銘で、我々のスローガンでもある。
 会長の墓石は、これまであまたの会員たちに舐られてきたが、いまだに硬さと鋭さと味を失っていないという。私もいつか、会長の墓石を心ゆくまで舐めたいものだが、私にはまだその資格がない。
その他
公開:21/01/05 13:12
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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