道切り

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街道から逸れて搾り山の方へ2キロほど歩くと庚申塔のある二又があって、西は川沿いの崖、東は集落へと繋がり、頭上には道の左右に立つ白樫の木からしめ縄を渡した道切りと呼ばれる魔除けがあった。道切りは山と村、村と村の境界に、編み途中の草履や草鞋、ヒトガタなどを吊るしておくもので疫病退散の意味もあるという。
私の名は畑中COVID-19(コヴィットナインティーン)美佳。親は悪くない。偶然同じ名前になっただけ。私の方が先なのだからWHOに抗議してもいいくらいだ。
道切りの向こうではたこ焼きの屋台がぽつんと営業していて、寺島進ふうの店主がヒップホップに演歌調のこぶしをつけながら焼き台に立っている。
「幸せってゆで蛸の吸盤を噛むことだろ」
私は彼と関わるのが怖くて道切りの手前でUberを利用した。
いくら待っても配達員はこない。
よく見ると並んだたこ焼きはお地蔵さまで、ソースの雨はやがて青のりに変わった。
公開:21/01/05 13:09

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