葬儀のあと

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澄みきった冬空が見事な群青に暮れはじめると鳥は森へと帰ってゆく。里山に囲まれた田園は冬らしく枯れて、今は発電機の音だけが響き、私は父が作った電飾のパチンコ台を農道に置いて、もう誰も来ることのない集落を独り占めにしている。
会社からの年賀状は解雇通知を兼ねていて正月早々私は無職になった。辞めるつもりが先手を取られて悔しかったけれど父の他界でそれも今はどうとも思わなくなった。
発電機を切るとパチンコ台の電飾は消えて、胸を刺す静寂が訪れる。風はおさまり山の向こうからぼんやりとした暖色の灯りがこちらに向かってくるのが見える。灯りはやがて農道の十字路までやってきてそれは夜鳴きそばの屋台だとわかる。行き過ぎる屋台を引く店主の姿はどこにもなく、私はその灯りに惹かれて血が滲むように残った遠い空の赤に向かって歩いてゆく。
それは父が遺したジオラマ世界で、私はそれを父のガレージでもう何度も繰り返し見ている。
公開:21/01/06 16:37

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