勇者になりたかった男

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俺の家系は、勇者の家系だった。
でも、勇者になれたのは、兄だけだった。

兄は、両親から剣術や魔術の手ほどきをあれこれ受けていた。
旅立つ前に、美人の姫と結婚の約束までしていた。
全てにおいて、兄が優先だった。

行く町行く町で、多くの人々が兄を「英雄」と褒め称えた。
ある日、兄が立ち寄った町で、俺の事を聞いてみた。
誰も、勇者に弟がいた事を知らなかった。

魔王を倒すと同時に、兄は行方不明になった。
だが、人知れぬ山村で静かに生きているという噂がある。

魔王のいない世界で、今度は俺が勇者になった。
でも、人々は誰も、俺を「英雄」とは呼ばなかった。
魔王のいないこの世界に、もう勇者は必要ない。

俺は、本当の勇者になりたかった。
でも、結局なれなかった。

兄は、一番美味しい所を持っていった。
俺があの世に行ったら、兄を一発ぶん殴ってやるつもりだ。
その他
公開:21/01/06 05:00

灰田兵庫

気まぐれで始めた事です。
気まぐれで終わって、多分それっきりになると思います。

……さて、いつまで続くか。

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