疫病の疫病

私の国で、疫病が流行った。
その疫病は、瞬く間に数多くの人々の命を奪った。

私は高齢だが、幸いにも年金や家賃収入があり、働かなくても生活できるだけの余力があった。だから私は、買い出しもゴミ出しも金を出して近所の人に頼み、家から一歩も出ない事にした。
差し入れられた物には、食料からハガキ一枚に至るまで全て消毒薬を散布し、疫病に罹る可能性を極限状態まで排除した。
食料も、加熱調理をする物以外は避けた。好物のサンドイッチや刺身は、あの日以来食べていない。

だが、無神経な奴がいるものだ。外を見れば、マスクをせずに平気で歩き回っている奴がいる。
あんな奴ら、疫病そのものだ。消毒薬を掛けて回りたいくらいだ。あんな奴ら……

………………

数年後、ようやく疫病の流行は収まった。
私は幸いにして疫病には罹らなかったが、｢周囲の全ての人間や物が疫病に見える病気｣に罹っていた。

私は今、刑務所にいる。