井戸
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井戸はあの世に通じている。大人たちに散々言われて分かっていたが、母とつまらぬ喧嘩で捨て鉢になった透は、裏にある古井戸の囲いを力任せに外してしまった。覗き込むと陽の光で奥底の水が揺れたように見え、背筋がぞくりとした。昔の映画を思い出し、思わず後ずさる。
「わっ」
背中にどしんと硬い感触を感じ、振り返ると薄汚れた衣をまとった老人が小さな目で透を見ていた。
「それ以上近付くな」
たじろぐ透に、「早く帰れ」と言い井戸の前に座り込んで蜜柑を食べ始めた。
「それ、お地蔵さんの御供え」
そんな事を口走ったのは精一杯の虚勢であった。どうしても家に帰る気にならずに里山の見晴台に通じる横道に入った。だが、道を間違えたのか行けども行けども辿り着かない。
「帰れと言っただろう」
後ろから声が追い掛けて来て思わず走り出す。息も絶え絶え辿り着いたのは古井戸だった。
「蜜柑喰うか?」
老人はにやりと笑った。
「わっ」
背中にどしんと硬い感触を感じ、振り返ると薄汚れた衣をまとった老人が小さな目で透を見ていた。
「それ以上近付くな」
たじろぐ透に、「早く帰れ」と言い井戸の前に座り込んで蜜柑を食べ始めた。
「それ、お地蔵さんの御供え」
そんな事を口走ったのは精一杯の虚勢であった。どうしても家に帰る気にならずに里山の見晴台に通じる横道に入った。だが、道を間違えたのか行けども行けども辿り着かない。
「帰れと言っただろう」
後ろから声が追い掛けて来て思わず走り出す。息も絶え絶え辿り着いたのは古井戸だった。
「蜜柑喰うか?」
老人はにやりと笑った。
ホラー
公開:21/01/05 23:44
更新:21/01/06 09:21
更新:21/01/06 09:21
井戸
あの世
地蔵尊
射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。
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