14
7

「カラスさん」
息子が空を指さす。最近また、言葉が増えてきた。少し前までは、飛ぶ鳥は皆『はとしゃん』だったのに。
西の空を見ると、確かに黒い烏が一羽、赤らみ始めた夕日をバックに飛び去っていく。
そこへもう一羽、さらに一羽。次々とやってくるので珍しいな、と思っていると、一度に烏の大群が押し寄せてきて空を覆い尽くした。
まだ初めのうち、烏の群れの隙間からちらちらと輝いていた夕日の火も、やがて黒い翼の波に呑まれて消えてしまった。
私は息子の手を取ろうとしたが、暗くてよく見えない。三年前にはまだ誰からも呼ばれることのなかった名を必死で叫ぶ。

ねえ、私は言葉ではなく心で、やっと生きることの意味を知ったばかりなのよ。

烏の群れに短な亀裂が入り、紫味がかった太陽が姿を現し始めると、徐々に視界が開き始めた。
息子は消えていた。私は尚も叫び続けている。いつの間にか私の背にも翼があった。

烏の、漆黒の。
その他
公開:21/01/04 08:00
更新:21/01/04 07:18

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容