丸い髭

マスク姿の男は申し訳無さそうに言った。
「…こんな事で来ていいのか迷ったのですが」
医師は笑顔で促した。
「初めて髭を伸ばしたんです。そしたらこんな事に」
男はマスクを外す。医師は目を丸くした。
「ラホツ…」
「今まで髭には全く興味無かったんです。このご時世常時マスクでしょう」
男は恐る恐る顎を撫でた。
「自分はどんな感じに伸びるんだろうって」
医師が触診した。
「私も螺髪かと思いました」
「な、球体…毛では無い！」
「そうなんです」
「少し調べさせてもらえませんか」
医師は丸い物体を切り取りその日の診断は終わった。

再来院した男に医師は言う。
「結果から言うとポリアミドが検出されまして…」
医師は引出しから何かを探している。
「ど、どういうことですか？」
探し当てた名刺を男に渡す。
「人工毛髪に使われる成分です。製造時の欠陥です。どうしても気になる場合はこちらの修理窓口へどうぞ」