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焼け落ちていく。
いままで積み上げてきたものすべて。手にしてきたものもすべて。

目のすぐ前の消防車のサイレンがどこか遠くから轟いてくるみたいに聞こえる。自分の人生の外側から。

誰だかも知らない隣人の、回収され損ねた欠陥ストーブが火元だと後から聞かされたとき、全身から力が抜けた。

子供は作らなかった。妻と二人、輝くときも病めるときも力を合わせて生きてきた。
彼女の葬式を終えた後、ひどい鬱状態になり、何度かは死のうとも考えた。それでもやって来られたのは、妻との思い出が、暖かい日の記憶が、共に過ごした家や縁の品々と一緒になって私を支えていたからだ。

私は本当に、独りになってしまった。

……

それが五年前のことだ。私は今、ニューヨークで新しい小説を書いている。

死は訪れる。形あるものはやがて潰える。
だから生きようと思った。残された力の限り。

もうこれ以上、失うものはないのだから。
その他
公開:21/01/05 08:00
更新:21/01/04 22:47

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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