時間のつぼみ

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職を失い、恋人に捨てられ、みじめな私の前に山猫軒が現れた。
そこがどんな店か重々承知している。それでも私はドアを押した。
貴金属を外し、服を脱ぎ、全身にバターを塗り込む。泣き喚く事なく注文に従った。
『椅子に座り、じっとして下さい』
最奥の部屋、そう書かれたメモがテーブルに置かれていた。
それに従う。きっと私の調理方法を考えているのだろう。出来れば痛くしないでほしい。
目の前には一輪の花。時間を忘れ、蕾のままのそれをじっと見つめる。
どれくらいそうしていただろう…気が付けば『もう結構です』のメモと一緒に湯気の立つスープが置かれていた。
スープを飲む。とても暖かく、心にしみる。顔をくしゃくしゃにしながら涙と一緒に飲み干す。
顔を上げると目の前に裸婦画が飾られていた。それは私の絵だった。私ってこんなに美人だったんだと再確認した。
生きる気力を取り戻した私はバターのニオイをさせながら店を出た。
公開:21/01/04 20:53

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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