色は匂えど 散りぬるを

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客室のドアを蹴破り中に入ると煙に咽せた。左手で口を覆う。額の汗は緊張からではない。部屋が暑いのだ。燃えている。圧倒的な炎で。

外では燃えるホテルから降り注ぐ夥しい札束に、野次馬達が群がる。

室内では、爛々と輝きながら炎は踊る。家具も、絵画も、絨毯も、黒く黒く、無残に色を失っていく。

後に「史上最悪のテロ災害」と語られる「帝都グランドホテル火災」

スイートルームの床、裸の元総理大臣が背中にナイフを生やしている。その傍には女が立っていた。

拳銃を向けると女が口を開いた。

「色鮮やかで香り高い花もいつかは散ってしまう。」
花瓶のバラが燃えている。
「…動くな。」
拳銃を持つ右手に左手を添える。引き金に指をかけた。

「ラストダンス。お付き合いくださる?ねぇ刑事さん。」
不意に重ねられた女の唇。感触。

悪戯に女は笑い、細く白い指を差し出す。
煙に紛れて、やさしく白椿の香りがした。
ミステリー・推理
公開:21/01/04 12:05
更新:21/01/04 12:13
いろは唄シリーズ① いろはにほへとちりぬるを 諸行無常

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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