雨音

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軒先で見知らぬ猫が雨宿りをしている。

「そんなとこにいないで、こっちにお入り。」
声をかけても振り向きすらしない。
アーモンド型の瞳で、真っ直ぐ空を見上げている。

私もこの猫と同じように
ずっと雨上がりを待っている。
雨が上がれば、あの人が迎えに来てくれるから。

「お前も誰かを待ってるの?」
猫の髭がぴくりと動いた。
ガラス玉みたいに綺麗な瞳に、日が差し込む。

猫は土のぬかるみを確認するように一歩踏み出すと、そのまま振り返らずにどこかに消えていった。
外は虹が出ているのに、まだ雨音がする。
雨はまだ上がらない。

「ここね、前に女の人が亡くなったのよ。こんな青空の広がるときではなく、雨がしとしと降り続く季節だったの。軒先で外を眺めたまま。誰かの帰りを待っていたのかしらね。」

雨音の向こうから、そんな声が聞こえた。
ホラー
公開:21/01/01 22:36

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