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霧が晴れてきた。
いつから歩いていたのか、記憶が朧げだ。
駐車場から歩いて来た気もするし、駅からだったようにも思える。
一人だった気も、連れ立って来た気もする。

足下が不安定に揺れている。開けてきた視界と相まって、今いる場所が吊り橋の上なのだと徐に理解する。

橋の終点に小面をつけた人物が立ち塞がっている。顔は見えないが見慣れた服から誰だかはわかった。後ろを振り向く。今度は老女の面をつけた人物が同じようにして直立している。やはり、誰かは検討がつく。

若い面の女が愛人で、老女が妻だ。実際の歳の差は、仮面ほどではないが。

私は踵を返して妻であろう女の元へ向かった。だが辿り着く前に、女は刃物を取り出して端の縄を切った。

勢いよく橋が落ち、私は奈落へと降下していった。

「大丈夫?」
叫び声をあげて目覚めると、妻が私を見下ろしている。
私は首を振り瞼を閉じた。
妻の顔が一瞬、老女に見えた。
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公開:21/01/02 23:00
更新:21/01/02 22:42

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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