時越し蕎麦
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長年付き合った彼女に振られ落胆の中で迎えた大晦日。気分転換に隣町まで歩いてきた僕は、お腹が空いたので蕎麦屋に入った。お品書きを開くと、そこに「時越し蕎麦」とある。見慣れない蕎麦だが好奇心からそれを注文してみた。運ばれてきたのは一見普通の蕎麦。だが口にした直後、僕は異変に気づく。なんとさっきまで向かいの卓にいた青年の姿が消え、代わりに老夫婦が食事をしているのだ。それに店にいる人の数も明らかに増えている。「もしかして今食べたのは、時を越える蕎麦だったのでは」スマホを開くと日付はちょうど一年前。間違いない。僕は過去に戻ったのだ。そうときたらすることは一つ。振られた彼女にもっと愛を伝えよう。店を出てバラの花を買うと僕は彼女の家に向かった。毎年一緒に年を越したあの家に。だが僕は見てしまう。彼女が他の男と手を繋いで家に入っていくのを。どうやら時を越えて過去を変えたかったのは、僕だけじゃなかったらしい。
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公開:21/01/02 20:05
更新:21/01/02 20:06
更新:21/01/02 20:06
春生まれです
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