福笑い

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居間の方から、キャッキャという笑い声が聴こえた。
そっと襖を開けてみると、見知らぬ子がうちの息子と福笑いをして遊んでいた。
「懐かしいなぁ」
と声をかけると、二人とも悪戯そうな笑みを浮かべてこちらを見上げた。
「面白いよ!」
「父ちゃんもやりなよ!」
おれは笑いながら目隠しの手拭いを受け取り、福笑いの前に胡座をかいた。
おや、この顔には見覚えがあるような⋯⋯。
「どうしたの?」
と、息子が心配そうに言った。
きっとアイドルの女にでも似せてあるのだろうと、おれは大して気にせずに福笑いを始めた。
「ようし、顔のパーツをくれ!」

すべてを置き終わり目隠しを取ると、そこには目と口の位置を間違えた奇妙な顔の女ができていた。
「うははははははっ!」
「キャッキャ!」
おれたち三人が大笑いしていると、妻がお茶を持って入ってきた。
「あらあら、楽しそうねぇ」
と笑う妻の口が、おれをぎょろりと睨んだ──。
ファンタジー
公開:21/01/02 15:00
更新:21/01/02 23:44

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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