落っことしたのは『青春』だった。

落っことしたのは『青春』だった。

「○○くんカッコいいよね！」
「めっちゃイケメンだわ」

クラスの人たちがムクドリのように鳴いているのを、私は傍で聞いている。
気味悪そうに一部のクラスメイトがチラ見するなか、私はただ心を落ち着かせるためにゼンタングルのごとく同じ円を描いていた。

いつか恋愛して結婚して幸せになると思っていたけれど、男子たちは煩くてハエみたいで嫌いだった。

「ねえ、何描いてるの？」
「何となく。円をうまく描けたら神絵師になれるらしいから」
「遠い道のりだねぇ」

青春といえば甘酸っぱい恋、全力で挑む部活、仲間と励む勉学。
それらすべてがどうでもよかった。けれど羨ましくもあった。

「……青春ってなんだろうね」
「青春というのは、青春・朱夏・白秋・玄冬のうちの、10代～20代前半あたりの時期を表す言葉だな」
「うん、辞書みたいな回答ありがとう。なんかほっとしたよ」